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蛇と犬の冒険雑記

前振りのログとか絵をあげたりとかできたら、できたらやるよ?

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2024/05/11(Sat)00:29

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開始前日

2009/11/18(Wed)19:59

Phase1-1 蛇と犬の前奏曲


開幕

ところどころ煤けたビルの階段を一人の少女が登る。
服装は近場ではそこそこ有名なお嬢様学校の制服で、
とてもでないがこんな場所で見かけるものではない。
だが、彼女は軽快な足取りで階段を上っていく、
やがて3階の扉の前に差し掛かったところで足を止め、ドアノブを無造作に捻る。
ガチャリ、と硬い手ごたえ。

「む、鍵がかかっています。ということはよっちゃんさんは不在…」

 ドアノブをガチャガチャと捻りながら中に向かって呼びかける。

「ナルさーん、ナルさん、いるんでしょう。あけてくださいなー」

ガシャッと不吉な音を立て、ドアノブが彼女の手の中に収まる。
握ったそれをしばらく見つめていたが、後ろに放り出して扉を軽く押す。
キィ、と音を立てて扉が揺れる。

「…えーと、開いたね、うん」
 勢いよく内側に扉を跳ね飛ばして中に入る。
「ナルさーん、あなたのかわいい小犬た…あいたぁっ!」

入ったとたん内側から丸められた雑誌が飛んできた。顔面に直撃だ。
のそり、と部屋の中央にあるソファから黒い影が起きあがる。
眠っていたのだろう、髪は寝癖がついてボサボサで黒ずくめの服装はヨレヨレ。
『ナルさん』と呼ばれたのは彼、九頭海鳴(つねかみ みなる)、
この部屋の主かのような振る舞いだが、ただの居候だ。
そんな彼は眠りを妨害されたためか、不機嫌そうな表情を顔に張り付かせながらボソリとつぶやいた。

「あいたあいたうるせぇ犬だ」
「ひどい…あと2回目のは意味が違います」

『犬』と呼ばれた少女、狗居一子(いぬい いちこ)が鼻を押さえながら抗議する。
そんな彼女を意に介さず海鳴は半開きの目でちらりとドアを見やり一言。

「また壊したのかお前…何度目だよ」

ギクッと効果音でも聞こえそうな露骨な様子で一子が海鳴から視線をそらす。

「2、回?」
「月だ、月。今週いくつ壊したかは聞いてねえ」

言葉遊びで数を誤魔化そうとした一子に容赦せず畳み掛ける海鳴。

「そんなことを乙女の口から言わせようだなんてナルさんたら…」

くねくねとしなを作って茶化すように一子が言う。
だがそれに対し海鳴は動揺も躊躇もせずに吸殻の一本もない灰皿を手に取り振りかぶった。

「次は灰皿がいいか、そうか」
「7回目でありまス!」

淀みなく敬礼しながら答えた。

「なんで毎度ドアノブ壊しながら入ってくるんだお前は」
「ナルさん、絶対開けてくれないじゃないですか」

面倒くさげに返す海鳴。

「ドアまで行くのが面倒で、お前の相手するのも面倒だからな」

内容も面倒一辺倒だった。

「でも、わかってください!貸しを作ってでも、愛する人に縛られたいアタシの乙女…」
「もう100光年ほど経過したら考えてやらんでもない」
「最後まで言わせてくださいよ…。あと、光年は時間じゃなくて距離なんですよー」

普段はあまり隙のない相手が見せた隙に、ここぞとばかりに食いついて得意げな顔をする。

「今のは俺の歩行距離の話だが」
「絶対無理じゃないですか!」

一子は軽くあしらわれて床に土下座のような体勢で突っ伏す。

「まあ犬っころの乙女なんとかは放っておいて、何の用だ」
「アタシとしてはそこを拾っていただきたいのですが、わかりました…」

手のひらと膝についた埃を払い、ポケットから小さな封筒を取り出す。
大きさは定型郵便物の細長い封筒より少し小さいくらいだ。

「最初はフツーに遊びにきただけだったんですけど、ポストにお手紙がきてましたよ。
 なんか本格的な、蜜蝋で封をした手紙なんてはじめて見ました」
「凄まじく怪しいな、てーかその手のは良人の領分だ。洋館だとか孤島だとかは俺の趣味じゃあねえしな。」

今は不在の家主のことを思い出す。
一昔前の探偵ドラマの主人公のような容貌の彼は、創作然とした妙な展開を好む。

「消印もあて先もないから直接投函されたんでスかね。蝋の封印に書いてある字は…PMC?」

封印に刻まれた字を読み上げたとたん海鳴の眉間にしわが寄り、口がへの字に噤まれた。

「いま、今年一番のいやそうな顔を見た気がします。お知り合いですか」
「知り合いっつーか、因縁の相手っつーか。なるほど、その手紙は俺をご指名らしい。
 恐らく良人が留守で、尚且つお前が俺んところに来るのまで計算して投函したんだろう」
「えらく目端の利く人ですね…」
「そういうレベルじゃねえかな、アレは」

言うと、ソファから腰を上げ、外出用の外套を肩にかける。

「出かける、危険はないから社会科見学したけりゃあついてこい」
「え、いいんですか。あとから嘘でしたーとかなしですよ?というか手紙の中は見ないでいいんですか!?」

手に持った封筒をふりふり判断を仰ぐ。

「どうせ中身は空だ、置いてくぞ」
「ああ、待ってー!」

部屋をズンズン出て行く海鳴を追って一子も部屋を出た。
てっきり階段を下りて外へ出るのだと思った一子は、反対側へ向かう彼を見て慌ててついて行く。
短く薄暗い廊下の先にあったのは、一段とボロっちいエレベーターだ。

「あれ、エレベーター使うんですか。というより誰も使ってるの見たことないんですけど、動くんですかそれ」

海鳴が右手を掲げて軽く振る、その手には銀色の小さな鍵が握られていた。

「おおう…鍵…」

昇降ボタンを押してエレベーターのドアを開くと、海鳴はフロアボタンの下にある鍵穴に鍵を挿し、操作パネルでエレベーターを直接操作した。

「ボタンは使わないんですか?」
「まあな、気にするな」

一時、妙な静寂が場を支配するも気になっていたことがあった一子は海鳴にたずねた。

「ところで、PMC…ってなんですか、民間軍事会社?」
「なんでんな略語知ってんだよ、だがやってるこたぁそんなに変わらんな。表向きは人材派遣会社だ。
 うちみたいなにわかとは違って、本当にどんな内容でも人材を派遣するなんでも屋だな」
「大企業っぽいのに名前聞いたことが全然ないんですが…」
「遂行能力は折り紙つきだが料金がバカみたいに高い。そんで依頼するにゃあそれなりのコネや紹介がいる。」
「窓口が小さいわけですか…口コミで広まる美味いラーメン屋!みたいな感じですね」
「正義の味方もお前に言わせると形無しだなあ」

正義の味方、という単語を耳にした時点で一子は微妙な顔をした。

「それが…本業なわけですか…」
「ああ、ちなみにPMCはピース・メーカー・カンパニーの略らしいな」
「名前をつけた人間の正気を疑いますね」

センスというものは、ないところにはとことんないらしい。

話題がひと段落して一子の頭にふと疑問がよぎった。

(あれ、そういえば…。3階にしてはずいぶん下がっているような…)

さして長くない会話ではあったが、オンボロビルの3階分を降りるには十分すぎる長さだった。
エレベーターが用を成さないのではないかと思うほど遅くなければありえないだろう。

「あの」
「ついたぞ」

一子が海鳴に問いかけようとしたタイミングで、ポーンと小気味のよい音を立ててエレベーターのドアが開く。
彼女は日当たりがいいとはとてもいえないビルの立地を思い起こし、
光が差し込んできた時点でいぶかしんだ、そして外に出て度肝を抜かれた。

「ええええええええ…」

窓の外に広がっていたのは鏡のようなガラスばりの高層ビル群、
眼下に見えるのは豆粒のように小さな人の群。

「あ、あのエレベーター下に降りてましたよね」
「社会科見学っつったろう、こういうのがお前が足突っ込んだ世界なんだよ」

こともなげに言う。つい先日、非日常の世界にウェルカムしたばかりの一子には衝撃が強すぎた。

「不条理だー!エレベーターの中で『表向きは』とか『正義の味方』とかの単語が出ていた時点で、
 確かにこういう展開を予感してましたけど!」
「ちなみにあのエレベーターは他の場所にもつながってんよ」
「どこ○も○ア!?」

近頃中の人が変わった国民的青い自称猫型機械の秘密道具を連想した。

「どこでもじゃねえけどよ」

無愛想な先人には素で返された。○ラえもん、知らないのだろうか。

しばらく人気のない、しかし清潔で、高級感のある廊下を一人は堂々と、一人はおっかなびっくり突き進む。
長い廊下の中ほど、他と比べるとひときわ大きな扉の前で海鳴は立ち止まる。

「入るぞ」

返事を待たず、バンッと叩きつけるように扉を開ける。

(蹴破るかと思った…)

中にはいるとそこはあまり飾り気のないオフィスだった。調度品は小奇麗で、
それなりにいい品だろうことは伺えるが飾り気はなく持ち主の個性というものが窺い知れない。

「お待ちしてましたよ」

声をかけられてはじめて気づく、中央に据えられたデスク、その向こう側に椅子に深く腰掛けた、
特撮ヒーローのマスクをかぶった身の丈小学生程度の子供の姿に…。

「で、用件はなんだ」
「つっこまないんですか!?」
「お気遣いありがとうございます。ですがまあ、いつものことですので、
 今日は最近流行の子供店長を意識してみました」

一子はまったく意味がわからなかったが、
この場所が非日常側に位置する場所であることを思い理解するのを諦めた。
ぶっちゃけると「見た目は子供、頭脳は大人」とでもいうつもりなのだろうと、適当に結論付けた。

「さて、お呼び立てしたのは他でもありません。依頼したいことがあるのです」
「手なら余るほどあるだろう、わざわざ出て行った人間を呼びつけて使うこともあるまい」

海鳴は唇の端を吊り上げながら言う。

「久しぶりに顔を見たくなった、とかどうでしょう」
「監視は続けてるだろう、【見通す者】(ウォッチマン)なんて仰々しい通り名が伊達だとは思ってない」
「相変わらず冗談が通じない人ですねえ」
「生憎とお前のつまらない冗談に付き合う気がないだけだ」
「つれないですねえ。まあ仕事の内容を聞く前から断ることもないでしょう、ひとつ聞いていってください」

見た目に似合わない腰の低い態度で少年は言った。
海鳴は「ふむ」と息を吐き、腕を組んであごをしゃくり続きを促した。

「今回の案件は『外界』に出向いてある物品を回収することです」
「その程度の仕事ならそれこそ俺に回さないでも適当に手駒を派遣すりゃあいいんじゃねえのか?」

合点が行かないという表情で口を挟む。

「現地に順応しすぎていて所在がつかめないのですよ、
 そこで縁のある人物に出向いていただいた次第でして」
「俺に縁がある品だってのか?どんな縁かは知らんが、面倒事はごめんなんだがな」
「言いながらも引き受けてくれる貴方が好きですよ、私は」

表情こそ見えないが、肩を揺らし小さく笑っているようだ。
なにか懐かしい物でも見るような表情でそれを見ていた海鳴だが、
ふと後にいるはずの一子を思い出し振り向いて言った。

「にしてもさっきからずいぶんと静かだなお前、いつもなら我先にと嘴突っ込んでくるのに」

いきなり話を振られたからか、ハッとした表情になる一子。

「あ、いえまじめな話に口はさんじゃ悪いかなーと思いましてですね、はい」
「と、言うよりは珍しい物を見て驚いているような顔でしたが」

少年が茶々を入れる。

「あぁ?」

愚弄の気配を感じ、因縁をつけるヤンキーのような声を上げてにらみつける海鳴に、
一子は少しばかり気後れしながら。

「えーと、よっちゃんさん以外に対してナルさんがフランクに話してるのを初めて見た気がして…」
「無愛想ですからねえ、友達いないんですよこの人」
「ほっとけよ!」

閑話休題、仕切りなおすように海鳴が話題を戻す。

「で、探してくるものは何だ、それがわからにゃどうしようもあるまい」
「青い髪の人形だそうですよ。なんと自立駆動型だそうですからウロウロしていたら探すのは大変でしょうね」
「他に特徴とかはないんですか?」
「ちょっと待て、何でお前が聞くんだ」

さっきと言っていることが違う、が別に海鳴は積極的に口を出せと言ったつもりもなかった。

「ここまできたんだから最後まで付き合いますよ!社会科見学なんでしょう?」
「あのなぁ…」

海鳴が「ガキの遊びじゃねぇんだぞ」と続けようとした時。

「いいじゃないですか、連れて行ってあげれば」

彼の予想外なところから一子への助け舟が出された。

「さすがの俺でも『外界』で命の保障まではできん」
「その辺りは『規定』で保障されているようですので心配はいらなそうですよ」
「よくわかんないですけど、だそうですよ、ナルさん!」
「ああもう、連れて行きゃいいんだろ…」

正直なところ命に危険がなかろうと足手まといには違いない、と思っていたが面倒だったので諦めた。

「世話をすると決めたなら最後まで責任はとるべきですよ」

少年が付け加えるように一言つぶやく。小さくひとつ、舌打ち。

「これ以上余計なことを言うならその覆面ひっぺがすぞ」
「おお、怖いですね」

おどけるように肩をすくめる。

「で、他に特徴は?」
「女中の服装をしているようですね。それと、暴走している可能性もありますが、
 その場合はなるべくお手柔らかに」
「加減ができる状況ならな」
「ナルさん化物じみた強さなんだから余裕なんじゃないですか?」

 一子が海鳴に対して素朴な疑問を呈する。

「あー、面倒なんで任せる」

そして海鳴は少年に丸投げした。

「ええと、どこから話しましょうか」

少年はをあごに手をそえて適切な言葉をさがす。

「さきほどから何度か話題に出ましたが貴方がたに向かってもらうのは『外界』と呼ばれる場所です。
 そこでは貴方や彼の能力のようなものに対してある種の制限がかかります。
 それが『規定』と呼ばれるものです。貴方はゲームなどは嗜みますか?」
「あ、はい少しくらいは」

本来は他にやることがなければ触っているくらいには遊んでいるのだが、
ここは乙女のつつしみとして伏せておく。

「この『規定』というのはいわゆるゲームシステムのようなものです。
 すなわち彼が異常に高い力を誇ろうとも『外界』へ赴けば現地の『規定』が厳密に適応されます。
 そしてこの『規定』は往々にして我々が持つ能力を大きく制限します。
 ロールプレイングゲームでいうとニューゲームなんだからレベル1からスタート、ということですね」
「そそそそれはつまり、そこに行けばアタシがナルさんを倒し下克上を狙うことも…!」
「…ねぇよ」

まじめな説明の最中にそんなことを考えていたのか、と呆れた表情で海鳴が言う。

「場合によってはあるかもしれませんねえ、
 ですが今回の場合は他の参加者と平均化が発生するだけのようですので、
 経験などの実戦で培った勘まで奪われるわけでもありませんし、恐らく下克上は無理でしょう」
「がっくり…」

目に見えて落ち込んでいる。

「目的が変わってるぞ目的が、ついてくるからには仕事も手伝えよ。一応数に数えるからな」
「ほんとですか!任せてくださいよ、ナルさんに頼られるとか、
 年に2度もない好感度アップイベントじゃないですか!」
「ああ、いまの発言で10くらい下がったなそりゃあ」
「そんな殺生な!」

床に膝をつき崩れ落ちる一子。

「話しを戻しましょうか、ちょうどいい具合に『規定』の話も出ましたし、今回の目的地にの基本設定について」

二人が安いコントをしている間に少年は話しを進めた。

「舞台は遺跡が存在する島、形式は財宝争奪戦といった様相ですね。
 環境はやや幻想寄りのイメージでしょうか、ですが参加者は各地から集められているために雑多です」
「宝探しに参加する必要は?」
「ありません。ですがせっかくですので楽しんできたらどうでしょうか。
 ここからがキモです。宝を全参加者で山分けとはいかないでしょうから、
 当然他の探索者や怪物との戦闘もあると思われます。
 ですが死ぬことはありません。力尽きても外に放り出されるだけです、親切ですね」
「なるほどな、そりゃ確かに命の危険はなさそうだ」

面倒なのは嫌、といいながらも少々あてが外れて残念だ、といったような表情をする危険人物がここにいた。

「ちょっとしたレジャー気分でいいと思いますよ。
 こちらとしては目的の対象さえ発見していただければ問題はありませんので」
「レジャー、いい響きですね!」

一子はレジャーという言葉に一人盛り上がっていた。海鳴は白い目でそれを見つめている。

「このくらいですかね。他に質問はありますか?」
「ねえな、もし何かあっても臨機応変に対処するさ」
「頼りにしてます、じゃあこれ招待状になりますから、なくさないでくださいね」

握り締めたら崩れそうな見た目の招待状を渡される。茶ばんで紙のはしがボロボロになっている。

「いかにもな宝の地図みたいな外観ですねえ」
「中に書いてあんのは文面だけのようだがな」

しばらく手紙を見つめていた一子が思い出したように声を上げる。

「あ、質問ありました!そこにはいつ出発するんですか?」
「ええ、まあ時間も惜しいことですし今すぐにでも」

少年は言うなり指を弾く。
パチンという甲高い音が響くと同時に、二人の足元に黒い、丸い、人一人通る程度の穴が開く。

「え…」

たった一言言う間に一子の頭の中では様々な考えが駆けめぐった。
ここはそうとう高いビルの上だったはず、とか。落ちたら死ぬのか、とか。
せめて頭から落ちるのだけは避けないと、とか。
しかし、結局のところ口をついて出たのは、とりあえずの絶叫であった。

「にゃあああああああああああ!!?」

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