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2025/03/14(Fri)23:52
前振りのログとか絵をあげたりとかできたら、できたらやるよ?
2025/03/14(Fri)23:52
2009/11/29(Sun)11:19
開幕
「いやー、久々に体を動かすのはいい気分だ
ちぃとばかし危なかったがな」
戦いが終わり鈍色の腕をぐるんぐるんまわし、体を解しながら海鳴が戻ってくる。
その先には呆然と目と口を開き、アホのような面になっている一子の顔があった。
「……」
「んだよ、鳩が豆鉄砲食らったような顔して、
ただでさえ珍妙な顔がいつにも増して馬鹿みたいだぞ馬鹿犬」
「ひどい暴言!でも今重要なのはそんな話じゃなくてですね!」
置いといて、というジェスチャーをしながら海鳴の鋼の腕を指差す。
「な、ななななな、なんですか!その腕!」
「何って、お前にはコレが栓抜きに見えるのか」
「凶器って意味ではまったくもって同意ですがそういう意味ではノゥ!」
オーバーなリアクションで手をクロスさせてバツの字を作る。
「い、いつからナルさんは、そんなにターミネーターな感じになられてしまったのでしょうか」
「いつからもなにも、お前に初めて会った時からずっと義手だったぞ」
「嘘ですよ!普通の手でしたよ!!」
一子は在りし日の海鳴を思い返す。
授業中、普通だった。戦闘中、普通だった。事務所で睡眠中、普通だった。
「そういうタイプの義手なんだよ、あと付け替えたのはつい最近な」
「袖めくり上げて肩口まで覆う黒い手袋なんてつけてるから、
てっきり遅れてきた難病に罹ってしまったのかという危惧が杞憂だったのは幸いですけど。
余談だが、難病というのは言うまでもなく目が疼いたり腕に封印された何かが暴れだしたりするアレである。
言っている端から件の手袋の正体が、腕の基部の隙間から這い出してくる。どうやら流体で表面を覆っていたらしい。
中から出てきたということは、戦闘中は中で腕を動かしたりしているのだろうか。
先日の海鳴の言葉を思い返して一子は思った。
(たしかに便利っぽいけど、ちょっとキモグロいです…)
薄いとはいえ拡がり方は水のような感じなのでゲル上のモノに腕が取り込まれていくように見えなくもない。
「なんでまたそんな物騒なものをつけるに到ったんですか…」
「面白いモンができたってーんでモニターを頼まれただけだが」
「そんな理由で近未来的なビジュアルを取り込まないでくださいよ!」
「俺も流石に今回ばかりは若干の抵抗はあったがな、
普段から装備のメンテナンスとかで世話になってんだよ。
まあ今となっちゃあ感謝すらしてるところだが」
「う、まあ今の戦いの様子を見る限り確かに…」
一子の知る海鳴の戦闘能力は正直、どのような相手を前にしても苦戦するとかそういうレベルではなかった。
普段はもっとこう、相手をおちょくりながら楽しむような趣味の悪い感じの戦い方をするのだが。
今日の戦闘は一杯一杯な感じで一子は見ていてハラハラしていた。
「しかし、タイミングが良過ぎるな」
ボソリと海鳴が呟く、出向いてもドア越しにしか対応しないような引きこもりの技師が、
事務所までデカい包みを抱えてやってきたのはつい先日のことだ。
あまりに久しぶりに顔を見たためにモノを見るまで誰だか思い出せなかったほどだった、偶然にしてはできすぎている。
手を回したのか、技師の気まぐれを利用したのかはわからないが、とりあえず掌の上なのは確かだろう。
「いまいましい話だ」
「何か言いました?」
「なんでもねーよ」
海鳴は一子の頭に手を置きわっしわっしとかき混ぜる。
「ややや、スキンシップはうれしいんですが髪が!髪が酷い事になります!」
口ぶりとは裏腹に、海鳴の表情は柔らかめだった。
元の世界でも能力に制限は受けていたが、苦戦らしい苦戦はしたことがなかった。
どちらかといえ好戦的な性格の海鳴としては、ほとんどの場合が弱いものイジメにしかならない事態にはやや鬱屈していたところだ。
弱くなって喜ぶ、というのも妙な話だが、海鳴は久々の苦戦に精神が高揚していた。
「お言葉に甘えてリゾートといきますかね」
「ナルさん!ストップ!うれしいけど毛が!やーめーてー!」
ご機嫌な海鳴とは裏腹に、一子の泣き笑いのような叫びが響き渡った。
閉幕
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