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蛇と犬の冒険雑記

前振りのログとか絵をあげたりとかできたら、できたらやるよ?

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2024/04/27(Sat)23:10

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偽島生活1日目

2009/11/25(Wed)18:04


気がつくと見慣れた場所、行事のたびにお世話になる学内の講堂に立っていた。
使われていないときは広く感じる場所も、学生で埋め尽くされるとやや息苦しい。
しかしいつからこの場所に立っているのだろう、アタシは。
直前まで何をしていただろうか、どこにいただろうか、
思い出せない、そもそも今日はなにか催しある日だったろうか。

「――」

隣に座るクラスメイトに声をかけようとする。
動けない、動けない?
そこまでやっておぼろげながら『ああ、これは現実ではないんだ』と認識する。
夢だろうか、これは途方もない夢想なのだろうか、はたまた過去の再現だろうか、
ならばいつのことだろうか。
思索だけが廻る。

やがてざわ、と空気が動く。
壇上に上がる人影。
ああ、そうかこれは―。

「非常勤講師の九頭海鳴です。しばしの間ですがよろしくお願いします」

あの人との邂逅の記憶―。


Phase1-2 蛇と犬の序章曲

開幕

「いや!ありえないでしょナルさん!!」

バネ仕掛けのおもちゃのように一子が跳ね起きる。
海鳴はそれを呆れた顔をして見つめていた。

「起き抜けにあわただしい奴だな、何の話だよ」
「うえ!?あ、ええと、いろいろ思い出すとすごい絵面だったなあと…」

声をかけられて一瞬うろたえる。
当人は取り繕っているつもりなのだが、如何せん寝ぼけているので回答は要領を得ない。
しかし、海鳴はリアクションからおおむねのところは察した。

「ふむ…」

一呼吸吐くと、わっしと一子の頭を掴む海鳴。
ゆっくりと締め付けていく、ギリギリと音が聞こえてきそうなほどに。

「あ、痛い!痛いです!地味に痛い!」
「どんな不遜なことを考えたのかはしらんが、躾は必要だよなぁ犬」
「死にます!このままじゃ死にます!ギヴ、ギヴアップです!!」

半泣きの訴えが通じたのか開放される頭。
大地に膝をつき本日3度目の失意体前屈を決める一子。

「ちょっと寝起きの脳を引き締めてやっただけなのにたいした疲労困憊ぶりだ」
「押忍、ナルさんの愛の鞭のおかげでしっかり目はさめたッス…」

少々落ち着いてくると体の節々が痛いことに気づく、頭は別として。
自分が置かれた状況を思い出し、省みて周囲を見渡すと、高層ビルの一室から一転、野生あふれる草原と木々。
どうやら体が痛いのは地面に直に寝転んでいたからのようだ。

「なぜ、ほわい…」
「今更そんなことを聞くのかお前は」

またしても海鳴は呆れ顔。それもそのはず、これは本日2度目のワープである。

「そういえばそうでしたねえ…」
「慣れろ、ちょうどいい実地訓練だろう。帰る頃には馴染んでるだろうよ」
「そうかー」

などと言って青く広い空を仰ぐ一子。
その顔に疑問符が沸く、何か忘れているような。

「帰る頃…ってそういえば!何も準備しないできちゃいましたよ!
 いえ、準備はまだいいです。学校に休むこととか連絡しないといろいろとまずいことに!
 仮にも全寮制の女子校、何日も無断外泊なんてことになったとしたら退学だってありえるかも!?」

あわわわ、とうろたえる一子に、他人事、と落ち着いた顔で海鳴が言う。

「その辺りはお前を連れて来るのも織り込み済みだったはずだし、
 あの場から直接ここに送ったということは手回しは抜かりないだろう」
「ま、まじですか、だいじょうぶですか?」
「多分だ」
「多分、ですか…」

不安は拭いきれなかったがひとまず納得することにした。
というか、多分を付け加えたのは間違いなくわざとである。

「そもそもあの子、何者なんですか…もういい加減見た目に騙されはしないですけど」

気になっていたけど当人を前にして聞くのはためらわれたので今まで据え置きにしていた問いをたずねてみる。
海鳴は目を伏せて少し考えてから口を開く。

「あいつは、そうだな、あいつには名前はない。
 よく使われる呼称はネームレス、ナナシ、能力をもって【見通す者】(*1)なんて呼ばれることもある。(*1:ウォッチマン)
 姿かたち不定、会うたびに違う格好だ。服どころの話でなく性別、年恰好、会うたびに別人になっている」
「め、めちゃくちゃ正体不明ですね。」
「ああ、だからあの子、なんて呼んでしまっている時点で術中にはまってると言える」
「うぐっ…見た目まで変わるとは考えていなかった自分の未熟を反省です」

精々中身がお年寄りとかその程度だと思っていた一子は渋い顔になった。

「さて、お前が寝こけている間にそこらに情報収集にいってきたんだが」
「ちょ、意識のない女の子をこんな場所に一人置いていったんですか!
 ナルさんは鬼ですか!あくまですか!」
「どちらかといえば悪魔だが、蛇だのなんだの言われた覚えもあるな」
「そういえばそんな風に呼ばれてましたねえ、人間地雷原とか繁華街の藪蛇とか」

ちなみにどちらも関わるとひどい目にあうという意味で使われている。
情報ルート上では絶賛現役である。

「んなこと言ってるのか、帰ったらシメとくか」

怖いことを呟いて凶悪な笑みを浮かべる海鳴を見て一子は本気で心の中で「逃げてー!みんな逃げてー!!」と思った。
口には出さなかった、とばっちりが怖かったので。

「だいたいなんだ、どんくさいにもほどがあるぞ。せっかくの【鋭敏感覚】(*2)が泣いてるぞ。(*2:シャープグラスプ)
 流石の俺も足から落ちたのに転んで頭ぶつけるなんて高等テクが見られるとは思わなかったっつの。
 あとなんだあの叫び声、にゃあってお前は猫か、犬なら犬らしく啼け」
「ひどっ、感覚っていっても嗅覚と聴覚だけですよう。
 それに人間足から落ちても頭の方が下に来るもんなんですよ!」

【鋭敏感覚】、一子の能力だ。主に嗅覚と聴覚が増幅される。
だが、別にこれをもって犬だとなんだのと弄られているわけではないことはここに明記しておく。

「言っておくが2mも落ちてないからな」

海鳴さんによるわかりやすい解説。
にゃああ>着地>どすん(ころんだ音)>ごっ(後ろに立っていた木に頭をぶつけた音)>きゅう(気絶した時に発したベタなセリフ)

「……」

恥ずかしさのあまり頭を抱えてうずくまる少女がそこにいた。

「まあ横道にそれたな」

手を打ち合わせ海鳴が話を戻す。

「とりあえずわかった事は、近くに人が寄り合って作ったベースみたいなもんがあった。
 あと胡散臭い詩人に地図を渡されたな、頼まれもしないのにいろいろ説明してくれたぜ。
 多分NPCのようなポジションなんだろう、律儀に全員に話しかけてたみたいだからな」
「詩人って、またファンタジックな感じですねえ…」
「その調子だとまた無駄にショック受けそうだから先に言っておくが、
 お前の好きなRPGだかに出て来るような剣背負った奴やら獣人やらもわんさかいたぞ」
「お心遣いありがとうございます」

一子はカルチャーショック的な感情に苛まれつつ話を続ける。

「そういう最初のナビ役ってあとあと敵として出てきたもしますよねえお約束的に…どうなんでしょうか」
「さあなお約束はしらんが、そうなっても戦うのはお前じゃねえよ」

ニヤと唇の端を吊り上げる、あれは絶対「面白そうだ」と考えてる顔だ、と一子は思った。

「だが、まあ現状のまま一人でやりあうのは心許ない。
 色々試してみたが、流体制御くらいしかできん」
「流体というと黒い影みたいなアレですか」
「おう、これだ、これ」

黒い影、という呼び方は言い得て妙だった。
差し出すように出された海鳴の右の掌から湧き出したそれは水のように零れ落ち、地面に薄く広がる。
光を反射しない深い深い黒、見ていると吸い込まれそうになるそれは、開かれた掌が握り込まれると霧のように霧散した。

「便利ではあるんだが戦闘向きではない、しばらく身体能力だけでやりくりしなきゃならんな」
「と、なるとここは仲間探しフラグですね」
「おうよ、そこでお前に異世界初仕事だ」
「あ、なんか嫌な予感しかしないです!待って、その先はダメなの!」

海鳴は腕を組んで居丈高に言う、対する一子は頭を抱えて腰が引けている。
おびえたアライグマのようだ。

「適当に仲間見繕ってこい、ここではスリーマンセルが基本らしいから残り2人な。」
「やっぱりですかー!!3人パーティってド○クエ2ですかぁー!!」

よくわからない感情のこもった叫びがこだました。

「情報屋で仲介屋だろうが、腕の見せどころだぞ」
「それは普通の人相手の場合ですよう、人外的な方とかバリバリいますよ無理ですよ!」
「お前だって犬だろうが、お前が知らないだけで俺達の世界にもそこそこいるぞ、連中は」
「…アタシの知らない世界が、また開かれてしまった」

本日4度目の失意体前屈だった。

「どんな人連れてきても文句言わないでくださいよ…?」
「言うに決まってるだろうが犬っころ、仕事ができるところを見せてみろ」
「うわーん!ナルさんのいけずぅー!!」

つれない言葉を投げつけられ、一子は泣いたふりをしながら駆け出していった。
一呼吸、一子の姿が見えなくなったところで海鳴は後ろを振り向き、声をかける。

「さて、人に仕事を押し付けておいて、自分までお出ましとはどういうつもりだ?」

声をかけた先の木陰から現れたのはカボチャをかぶり杖を持った燕尾服の男。

「嫌ですねえ、たまに様子を見にくるくらいはできますよ」

ネームレスだった。

「しかし…」

頭のてっぺんから足の先まで眺め回す。

「その格好は少々時期が遅くないか」
「先月用意したのに人前に出る機会がなかったもので」

人前に出るとき以外は普通の格好だとでも言うのだろうかこの男。

「それで、なにをしにきたんだ」
「いえ、言い忘れていたことがありましたので」

数秒の間、見詰め合った海鳴とカボチャ頭はこぶしを持ち上げ打ち合わせる。

「―健闘を祈ってますよ?」
「うっせぇよバーカ!」

かくして、FalseIslandでの冒険がはじまる。

閉幕

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