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蛇と犬の冒険雑記

前振りのログとか絵をあげたりとかできたら、できたらやるよ?

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2024/04/28(Sun)02:41

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偽島生活6日目夜

2009/12/10(Thu)21:01

Phase1.X 蛇足2~ついてるとかついてないとか~


開幕

初の遺跡侵入からの帰還後、一先ずパーティを解散し、宿に向かった。
島到着初日、最悪野宿も考えていたがベースにあった宿を尋ねたところ、
幸いに(意外でもあったが)日本円が通用したので常宿を借りてあるのだ。
ちなみに、その時一子は相部屋を強く主張したが、海鳴は表情一つ変えず完全に黙殺し一人部屋を二つ借りた。

その借りた部屋でくつろいでいたところ、押しかけて、
寝ている海鳴の隣に居座っていた一子が不意につぶやいた。

「ナルさんがくさい気がするんですよ」

いやな予感がして一子は顔を引いた、間一髪、鋭い速さで下から上に目の前を通り過ぎる海鳴の指二本。

「ちっ…」
「む、無言で唐突に指を突っ込もうとするなんて、大胆なナルさん」
「誤解を呼びそうな言い回しはやめろ。あと、お前がいきなり無礼千万だからだろうが馬鹿犬」

無論狙いは鼻である。海鳴は不愉快そうに眉根を寄せて下から睨みあげている。

「いや、冗談抜きでですね。なんかにおうというか、ナルさんってこう、
 普段は普通の人なら誰でもある程度の体臭すらないんですけど」

怪訝、という顔をして首をひねる。

「ここ最近はにおいがするというか、体臭って感じでもないんですが、強いて言うなら土やら砂のにおいが」
「最初からそう言えば余計な手間をかけんで済むんだが…」

疲れた顔でいう、一子のほうはと言えば都合の悪いセリフは右から左だ、聞こえなかったフリ。

「おそらくそりゃ、浄化に回してた能力が制限食らってるからだろうな」
「浄化、ですか?」
「おう、面倒だからあんま風呂とか好きじゃねえのよ。
 だからまあ、常に能力で服ごとクリーニングしてるわけだ。
 これが戦闘用の能力と源泉が同じだからな、止まってるんだろ」
「手の抜きどころを間違ってる気がしますけど、どうりで他に服とか持ち合わせてないわけですね…」
「そうだな」

寝ていた海鳴が起き上がる。

「だが俺としては、何でそんなことをお前が知っているのかの方が気になるわけだが」
「たゆまぬリサーチの結果ですよ!」

言ってすかさず離れようとする一子。
しかし海鳴は逃がさない。親指と小指をこめかみの位置へ、彼女の頭部をがっちりと掴む。

「そういうことを言ってるんじゃねえんだよ、わかるな?わかるよな?」
「じょ、情報屋として情報源を売るわけにはぁー!」
「語るに落ちたな、自分で漁ったりしたわけではないと、情報源を吐けばこの場は許してやらんでもない」
「口がすべったあー!!」

ちなみに情報源は海鳴の居候先、探偵事務所の主、無印良人その人だ。
目下最大の情報源であるのでここでバラして失うのは痛い。

「今回は!今回ばかりはご勘弁を痛い痛い痛い割れる!!」
「しぶといな、もうちょっと締めるか」

加減はしている、だが怪力、馬鹿力の海鳴である。
りんごどころか石くらいなら素手で砕きそうな握力に頭蓋がきしむ。

「あー!無理です言えません!でもこのままだと死にます!」
「ふん」

最後まで情報源は言わなかったがあっさり開放される、
今回ばかりは本気で死を覚悟していた一子は若干拍子抜けした。

「ゆ、許してもらえるんでしょうか」

その言葉にニタァと悪い笑みを浮かべる海鳴。

「こういったことが二度とないよう良人にはキツく言っておくとしよう」
「バレてる!!ななな、なんで!?」
「そりゃお前、共通の知り合いで俺のことを詳しく知ってるやつが他にいるのかよ」

性質の悪いことに、海鳴は全て予想がついていて締め上げていたわけだ。
まあ、推測でしかなかったのだが裏づけは一子が勝手にうろたえて暴露してくれたので問題ない。

「し…締められ損ですかぁー!!」

虚しい慟哭が響き渡った。


数分後、しょげる一子が立ち直るのを待って仕切りなおし。

「そういうわけで、お風呂にはいったほうがいいとおもうんですよ」
「まあ、確かににおうとか言われるといい気分はせんが、替えの服がないわけだ、これはもうどうしようもないだろ」
「どんだけお風呂嫌いなんですかナルさん、そこらで適当な服を買ってきて着ていればいいじゃないですか。
 なんなら今着てる服は私が洗濯しておきますし。」

初日に商店などが一通りそろっているのは確認している。
客が支払いに使う金子などは皆バラバラのようだったが、誰かが取りまとめたりしているのだろうか。

「額面通り取れば善意にも聞こえるが、お前に俺の私物をひとつでも渡そうものなら奇行に走りそうだからなあ」
「そそそそんなことあるわけねぇでございますのことよ?」

目をそらしてあからさまにとぼける一子。

「うろたえ過ぎだろ、おい」
「冗談です、せいぜいちょっと嗅ぐくらいしかしません。問題ありません」

海鳴が白い目で一子をみる。
一子は滑ったかなーなどと思いつつ。

「ハァハァ」

重ねてボケてみる。
いっそう視線が冷たくなる。

「……」
「……」

時間が止まる。

「ほんとに冗談です、すいませんでしたぁ!
 そんな哀れなモノを見るような目で見つめるのは許してください!」

さすがの一子も今回ばかりは冗談のつもりだったので全力で平伏する。
なまじっか鼻がいいだけににおいなどは嗅ぎ慣れているのだ。
そもそも今海鳴の服についているのは砂や埃のにおいであって体臭ではない。

「…まあいい、面倒だが小汚いのはご免だからな」

ふん、と息を吐き薄く笑う。

「あ、折角だから不詳このわたくしがお背中お流ししますよ!」

泣いたカラスがなんとやら、元気に挙手し立ち上がる一子。
海鳴がその首根っこをひょいとつかみあげる。

「わふ!?」
「自分の、部屋に、帰ってろ!」

一子はぺいっと部屋の外に放り出される。
ドアはバタンと乱暴に閉じられ、ガチャリと鍵のかかる音。
床に座り込んで顔を伏せる一子。

「にゅふふ…この程度であきらめるわけないじゃないですかっ!」

その顔には邪悪な笑みが浮かんでいた。

 

「ぬきあーし、さしあーし、しーのびーあしー」

部屋を追い出されてからしばらくして、隣の自分の部屋で息を潜めていた一子は、
水音を確認してから行動を開始し、すばやく海鳴の部屋への侵入を果たしていた。

「くふふ、この宿の鍵の構造はチェック済み、あたしの腕でも十分開けられるのです…」

手にはとても一朝一夕では使いこなせないようなツール類が握られている。

「ノゾキが男性だけの専売特許ではないということを教えて差し上げますよ!」

そっと脱衣所に続く戸を開けて、ゆっくりと中を伺う。
そのとき背後から肩をポンポン、と叩かれる

「はい?」

振り向いた一子の視線は迫る何かで完全に塞がっていた。
ズブッという音がしたような気がした。

「ぎゃあああああ、眼がー!眼がぁー!」
「人の部屋で何してやがる」

背後に立っていたのは海鳴だった。
なお、視界をふさいだのは先ほどの空振りの雪辱を果たした人差し指と中指である。

「眼がつぶれましたぁー!」
「おい、おちつけ馬鹿犬。つぶれてねぇよ」
「あれ、痛くない。見える!」

一子の目を襲った指二本は眼球の表面に触れたところで寸止めしていた。
少なくとも、今すぐどうこうといったことになるわけはない。

「って、なぜにナルさんが後ろから!?中からは水音がしているというのに!」
「そりゃお前湯を溜めてるからだろう」
「謀ったなぁー!あいたたたたた!痛い!痛いです!またこのパターンですか!今日二回目です!」

再びアイアンクローが決まる。
ミシミシと頭蓋が悲鳴を上げる。

「お前が、毎度、奇行に、走る、から、だろう、が!」
「やめて!ちょっぴりクセになりそう!」

折檻はしばらく続いた。



「だいたい」

腕を組み、仁王立ちの海鳴が正座をした一子を見下ろしながら言った。
服装は見慣れないモノ、普段着である。どうも買ってすぐ着替えたようだ。
一子はもう少し早ければ着替え乱入イベントのフラグがたっていたのか、
などとくだらないことを考えていた。

「何が目的で人の湯浴みを覗こうとするかな…」
「いえ、こう全力を持って乙女アプローチを繰り返しているわけですが、冷静に考えるとナルさんって」

一拍の間。

「男なんですか、女なんですか?」

至極真剣な顔で言った。対する海鳴は微妙な表情である。

「女だって言えば諦めんのかお前は」
「いえ、アプローチのしかたを変えるだけですお姉さま゛ぁっ!?」

手刀が頭上から舞い降りる。
左でなかったのはせめてもの慈悲か。

「今のは冗談としても、ナルさんって馬鹿力の割に見た目筋肉とかもついてないですし。
 むしろ華奢っていっていいくらいだし。服着てると結構がっちりしてるように見えるのに」

軽装になった今だからわかる、左腕こそ嵩があるものの、全体的には細い。

「そりゃアレだ」

海鳴は椅子に掛けてある上着を手に取ると、一子に向かって放り投げる。
上着はとても布とは思えぬ軌道を描いてズシッと腕に収まる。

「うわ、重っ」
「胴回りには全部鎖が縫いこんである、肘から先と肩にはプロテクター」
「ああ、それは、シルエットとかみえないわけですね…」

シルエット、注視するのはバスト…チェスト?

「しかし…胸はまったいらですね」
「喧嘩なら買うぞ?」
「男性なら気にしなくてもいいじゃないですかっ」
「女かもしんねえだろ?っつーかジロジロ見られるのが気にくわねえんだよ!」
「隠すから気になるんじゃないですか!
 尋ねても、『さあな』とか、『知るか』とか、いつもはぐらされてばっかりなんですもん!」

「屁理屈を…」などとブツブツ呟きながら面倒くさそうに応答する。

「いいだろう、全部じゃないが答えてやろう」
「…え、男か女かで終わらないんですか?」
「終わらんな」
「今そこはかとなく聞かなきゃよかったかなーとか思いつつあります」

またしても非常識な話になりそうな予感に、一子は自分の迂闊さを呪った。
まあ海鳴が”人間じゃない”くらいまでは想定内ではあるのだが。

「まず、戸籍上は男だ」
「いきなり奥歯に食べ残しが引っかかったような物言い」
「生物学上は男でもあるし、女でもある」
「え、XXY染色体とかそういうやつですか…?」
「そういう話じゃねえよ、最近会っただろうが、似たようなケースのやつに」

最近会った人、似たようなケース。
出会うたびに容姿がコロコロかわるというなぞの人。

「ネームレスさん!」
「そうだ、まあ多少毛色は違うがあいつと似たようなもんだな」

毛色が違うと言ったが、どう違うかを説明する気はないようだ。

「う、じゃあナルさんが今のままのナルさんとは限らないってことなんでしょうか」
「なんだ?見た目がコレじゃなきゃ鬱陶しいアプローチも収まるのか?」
「いや、そういうわけじゃないんですが、もしも小学生児童とかになられてしまわれたら。
 青少年保護育成条例とかの関係上色々手が出しづらいじゃないですかっ!」
「むしろそんなガキにも手を出そうというお前に引くわ!」
「やだなぁ、中身ナルさんじゃなきゃそんなことはしませんよ?」

対外的には同じことのような気はしたが海鳴はあえて触らないことにした。

「とりあえず、当分このガワを捨てる気はないからな、その辺りは気にしないでもいい」
「ガワとか言われると複雑な気分ですけど、若干安心しました…」

表情は優れないものの胸をなでおろす動作。

「まあ、話せることはコレくらいか」
「ってまだ肝心なことは何一つわかっていない気が!」

結局男なのか女なのかははぐらかされたままだ。
一子は海鳴に詰め寄った。

「誰も知らない状態が一番都合がいんだよ俺にとっちゃあ。
 性別が割れることによって起こる問題ってのもあんだよ」
「その問題っていうのはやっぱり…」
「まだ話してやるわけにゃあいかんな」

しょげる一子だが、気づいてハッと顔を上げる。

「まだ、ってことは!」
「一人前になったら話してやらんでもない。
 ま、今のペースじゃいつになるかわからんがな」
「ひゃっほーぅい、デレ!デレ期きたー!きたこれー!」
「うぜぇ…」

余計なことを言って調子付かせたか、と思い渋い顔になる海鳴。
一子はというと対照的に満面の笑みで万歳三唱している。

「おら、はしゃぐんじゃねえ!」
「はーい」

ちょこん、おとなしく座る一子、表情は変わらず喜色満面である。
その前には腕組みをして仁王立ちになる海鳴、当初のポジションに戻る。

「そんなわけだから、以降の詮索を禁ず」
「はいっ、ナルさん!」

元気良く挙手。

「なんだ、言ってみろ犬」
「ノゾキは性別の確認とは別腹です!浪漫だからやっているんです!
 だからまたやってもいいですよねぶらっ!?」

デコに掌底が飛ぶ、懲りない一子は床をすべるように後ろに跳ね飛ぶ。

「痛い!叩かれたところより床ですれた脛が痛い!」
「お前の辞書にゃ反省ってぇ字がないのか阿呆!!」
「やーだなぁ、そんなものがあったら今この場にいないですよ」
「……あー、それは言えてるかもしれん」

ゲンナリして納得する海鳴だった。

「まあ、しゃあねえか…」
「ノゾキをすることを許可していただけるんですか!」

海鳴の顔に引きつった笑いが浮かぶ、青筋のようなものも、現れているような。
表情にばかり気が言っていた一子はまったく気づいていなかった、
そのとき左腕を覆う流体が量を増して蠢いていることに。

「そんなわきゃねぇだろ、こんの馬鹿犬!」

言葉と同時に左腕をひと振り。
嫌な予感を感じた一子は海鳴が動作に移るその前に、
正座から立ち上がり反転、脱兎のごとく部屋の入り口に向かって駆け出す。
否、駆け出そうとした。長時間正座していたせいで足が痺れていた。
何かが足を締め付ける。言うまでもない、流体だ。

「ひゃう!ちょ、締めないで、痺れてるんです!!」

そんなことを言っている間にも、流体は滑らかにしなりながら腕を絡め取り、胴を縛り、猿轡を噛ませる。

「ふぐぐ!ふぐぐぐー!」

何か抗議の言葉を言っているようだが、声にならない届かない。

「さて、反省して今後行動を改めるなら開放してやってもいいが…」

ブンブンと音がしそうな勢いで首を縦に振る一子。
最近見なくなった某金融会社のCMの子犬のように潤ませた瞳で海鳴を見上げる。

「そーかぁ、反省する気はないかあ」
「んーんーんー!」

一子の訴えを意図的に無視し、嗜虐的な笑顔を貼り付けたまま黙殺する海鳴。
縛られた状態の一子を廊下に引きずり出す。
全力で首を横に振りながら、びったんびったんと苦悶するいも虫のように抵抗する一子だったが、
完璧に自由を奪われていてどうしようもない。

「そこで一晩反省してろ」

黒いも虫状態の一子を放り出したら海鳴は早々に部屋の中に引っ込んだ。
ドアの脇に放置された一子はというと、しばらくの間、ほどけないかと試行錯誤していたが、
やがて諦めて、できれば人が通りませんようにと祈っていた。


やがて夜もふけて、皆が寝静まり人の気配がなくなったころ。

(放置プレイ…か)

満更でもなさそうな表情の一子がそこにいた。
初の遺跡外の晩が過ぎていく…。

閉幕
 

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